【判定表付き】製造業の生成AI活用は?見積・修理履歴の検索と手順書づくり
この記事で分かること
- 見積・修理履歴の検索、手順書・報告書づくり、受発注事務の業務別の判定表
- 図面や顧客情報を「入れてよい・入れない・構成しだい」に分ける線引き
- 社外にデータを出さない構成の考え方と、試す前のチェックリスト

製造業の生成AI活用とは、見積や修理の記録の検索、手順書や報告書の下書きといった文書まわりの作業を、生成AIに手伝わせることです。結論から言うと、過去の記録を探す作業と、文書の下書きは試す価値があります。ただし、金額や安全に関わる判断は人に残します。この記事では、金型・部品加工などの中小製造業で、どの業務なら使えるかを判定表で整理します。図面や顧客情報の扱いも、入れてよい範囲の線引きとして書きます。
製造業の生成AI活用で、まず分けるのは「探す」「書く」「判断する」です
製造業で生成AIを使う場面は、記録を探す作業、文書を書く作業、判断する作業の3つに分けると整理しやすくなります。
(1)この記事の問いは、実際の質問から来ています
問いの出どころは、金型製作・射出成形の会社の代表からいただいた質問です。内容は「過去の見積・修理履歴の検索、作業手順書・報告書の作成、受発注に関する事務作業に活用できるか関心がある。図面や顧客情報の扱いも知りたい」というものでした。同じことを考えている中小製造業の方は多いと思い、記事にまとめました。
最初に、この記事で扱う範囲を決めておきます。
| 作業の種類 | 例 | 生成AIの役割 |
|---|---|---|
| 探す | 過去の見積、修理履歴、類似の不具合の記録を探す | 関連しそうな記録を出す |
| 書く | 作業手順書、作業報告書、見積書の説明文を書く | 下書きを作る |
| 判断する | 見積金額を決める、修理方法を決める、出荷してよいか決める | 材料を並べる。決めるのは人 |
(2)「判断する」を任せないことが、いちばん大事な線です
生成AIは、もっともらしい文章を作れます。その文章が事実と合っているとは限りません。見積の金額、修理の方法、品質の合否のように、間違えると損失や事故につながる判断は、人が決めます。生成AIの役割は、人が判断するための材料を、早く、漏れなくそろえるところに置きます。
この線を決めておくと、後で述べる図面や顧客情報の扱いも考えやすくなります。
過去の見積・修理履歴の検索は、記録が探せる状態なら試せます
見積や修理履歴の検索は、記録が電子化されていれば、生成AIの使いどころとして最初に検討できる業務です。
(1)使うのは「社内の文書を検索して答えに使う仕組み」です
質問を入れると、関係する過去の記録を探して、その内容をもとに答えを返す仕組みがあります。この仕組みはRAG(ラグ)と呼ばれます。社内の文書を検索して、答えの材料に使う方法のことです。たとえば「この材質で、似た寸法の金型の見積はあったか」と聞くと、近い案件の記録が出てくるイメージです。
出てくるのは、過去の記録とその内容です。今回の見積金額を、生成AIが決めるわけではありません。金額は、出てきた過去の記録を見ながら、人が決めます。
(2)製造業に近い事例が、1件あります
建設機械メーカーの品質保証部門で、過去の試験記録を探す仕組みを作りました。新しい製品を出すたびに、どの試験が必要かを決める業務です。これまでは熟練者が過去の試験資料を調べ、会議を重ねて決めていました。
作った仕組みは、次のとおりです。
- 新しい製品の仕様書を入れると、過去の製品からの変更点を読み取る
- 変更点に関係する過去の試験記録を探し、必要になりそうな試験を挙げる
- 社内の文書を検索して答えに使う仕組み(RAG)で作り、データは社外に出さない形で動かす
どの試験を行うかを決めるのは、これまでどおり熟練者です。熟練者は、資料探しの時間を、結果の確認と判断に回せるようになりました。
なお、金型や射出成形の現場での導入事例は、もちもつにはまだありません。この記事の金型・成形への当てはめは、上の事例と同じ考え方を、見積や修理履歴に移した提案です。
(3)検索が当たるかどうかは、記録の状態で決まります
記録の中身より前に、記録が探せる形で残っているかが分かれ目です。次の状態だと、生成AIを入れる前に、整える作業が先に必要になります。
| 記録の状態 | 起きること | 先にやること |
|---|---|---|
| 紙の見積書しかない | 文字として読み取る作業が先に要る | 直近の数年分だけを電子化する |
| 担当者ごとのExcelで、書き方が違う | 同じ意味の項目が別の名前で並ぶ | 最低限そろえる項目を決める |
| 修理の経緯が口頭やメモ書きだけ | 検索しても出てくる記録がない | 今後の分から、書く項目を決める |
| 案件の番号と図面の番号が結びついていない | 見積と修理が同じ金型の記録だと分からない | 案件と金型の番号の対応を作る |
記録が少ない、または書き方が揃っていない場合は、検索の精度が出ません。その場合は、仕組みを作る前に、記録の残し方を決めることが最初の仕事になります。
手順書・報告書づくりは、下書きまでを任せるのが現実的です
手順書や報告書は、材料がそろっていれば、生成AIに下書きを作らせて、人が直す進め方で試せます。
(1)材料から文書にする作業は、生成AIが得意な部分です
作業メモ、写真の説明、過去の手順書といった材料があれば、文書の形に整える作業は任せやすくなります。たとえば、現場の担当者が書いた箇条書きのメモを、決まった様式の作業報告書に並べ直す使い方です。過去の手順書を渡して、新しい金型向けの手順書の下書きを作らせる使い方もあります。
下書きを作らせるときは、次の3つを渡します。
- 自社の様式(見出しの並びと、書く項目)
- 材料になるメモや過去の文書
- 書いてはいけないこと(分からない項目は空欄にする、など)
(2)安全・品質に関わる記述は、必ず人が確認します
手順書には、書かれていない手順や、間違った数値が混ざる可能性があります。作業の順番、締付けや温度などの数値、保護具や安全上の注意は、現場を知る人が1行ずつ確認します。確認の手間を減らすため、生成AIが材料から書いた部分と、材料にない部分を区別して出すよう指示しておきましょう。
下書きを人が直す時間が、ゼロから書く時間より短いか。ここは、自社の文書で実際に試して測ります。この記事では、製造業での削減時間の数字は示しません。もちもつの記録に、製造業の手順書での実測値がないためです。
(3)手順書は、数が多いより、書き換えが多い文書から試します
年に1度しか作らない文書より、案件ごとに少しずつ書き換える文書のほうが、効果を確かめやすくなります。同じ様式で、中身だけが変わる報告書が向いています。逆に、1枚しかない特殊な設備の手順書は、下書きを作らせる価値が小さくなります。
受発注の事務は、件数と例外の多さで判定します
受発注の事務は、件数が多く、書式が決まっている部分だけなら試せます。例外が多い場合は後回しにします。
(1)使えるのは、読み取りと転記の部分です
メールや注文書の内容を読み取り、受注の入力欄に並べる作業は、生成AIの使いどころです。読み取った結果は、そのまま登録せず、人が見て確かめてから登録する流れにします。注文の数量や納期は、間違えると納品の遅れや過剰な製作につながるためです。
(2)件数が少ない業務は、作る手間のほうが大きくなります
自動化する業務の件数が少ないと、作る手間と維持の手間が、減らせる時間を上回ります。これはもちもつの現場で何度も見てきたことです。判断する前に、次の数字を記録しましょう。
| 測るもの | 見方 |
|---|---|
| 月に何件あるか | 履歴から数える。感覚で決めない |
| 1件にかかる時間 | 確認や修正の時間まで含めて測る |
| 例外の割合 | 書式が違う、内容が足りない、電話で確認する、などの件数 |
| 間違えたときの影響 | 手戻り、納期遅れ、再製作のどれにつながるか |
件数が少なく、例外が多い業務は、仕組みを作るより、手順の見直しを先にしたほうが早い場合があります。
図面・顧客情報は「入れてよい・入れない・構成しだい」に分けて考えます
図面や顧客情報は、すべて禁止でも、すべて自由でもなく、情報ごとに線を引いて扱いを決めます。
(1)まず、情報を3つに分けます
線引きの基準は、社外に出たときの影響と、取引先との約束の内容です。下の表は、考え方の例です。自社の取引先との契約や社内の規程に合わせて、見直してください。
| 区分 | 情報の例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 入れてよい(試しやすい) | 自社だけで作った手順書、社内の作業手順、特定の取引先に結びつかない文書 | 最初に試す対象にしやすい |
| 構成しだい | 見積書、修理履歴、報告書。取引先名や単価が入る文書 | 取引先名や金額を伏せる、または社外にデータを出さない構成で扱う |
| 入れない(最初は対象外) | 取引先から預かった図面、秘密保持契約の対象になっている情報、個人情報 | 契約で許されている範囲が確認できるまで、入れない |
取引先から預かった図面は、取引先との秘密保持の約束がある場合があります。その場合、自社の判断だけでは、外部のサービスに入れてよいか決められません。契約書や取引基本契約の条項を確認し、不明な点は取引先に確認してください。
(2)社外にデータを出さない構成も、選択肢としてあります
生成AIを、自社の環境の中だけで動かす構成を作ることができます。前の節の建設機械メーカーの事例では、データを社外に出さない形で動かしています。このような構成なら、構成しだいの区分の文書も、扱える範囲が広がります。
ただし、この構成にも条件があります。
- 自社の環境を用意する費用と、維持する手間がかかる
- 回答の質は、使うモデルと記録の状態に左右される
- 誰がどの文書を見られるかの権限を、別に設計する必要がある
どの構成が自社に合うかは、扱う情報と件数によって変わります。クラウドの生成AIサービスを使う場合は、入力した内容が学習に使われるか、どこに保存されるかが、サービスや契約のプランで異なります。利用するサービスの規約と設定を、導入前に必ず確認してください。
(3)最初は、機微な情報を入れずに試す方法があります
図面や取引先名を入れない文書で試して、効果を確かめてから範囲を広げることができます。たとえば、社内の手順書の下書きや、取引先名を伏せた修理記録の検索から始める方法です。この方法なら、取引先との約束に触れずに、使えるかどうかを確かめられます。
【判定表】自社の業務は、どこから試せるか
業務ごとに、試せる、条件つき、後回しの3段階で判定すると、最初に着手する業務を1つに絞れます。
(1)業務別の判定表
この表は、判断の出発点です。自社の記録の状態と件数で、判定は変わります。
| 業務 | 判定 | 理由 | 人に残す判断 |
|---|---|---|---|
| 過去の見積・修理履歴の検索 | 条件つき | 記録が電子化され、書き方が揃っていれば試せる | 見積金額、修理方法の決定 |
| 作業手順書の下書き | 試せる | 材料があれば、下書きまでは任せやすい | 作業順序、数値、安全上の注意の確認 |
| 作業報告書の下書き | 試せる | 様式が決まっていて、書き換えが多い | 内容の事実確認 |
| 受発注メール・注文書の読み取り | 条件つき | 件数が多く、書式が決まっている部分に限る | 数量、納期の確定 |
| 取引先から預かった図面の検索・要約 | 後回し | 秘密保持の確認と、構成の検討が先に必要 | 取引先への確認 |
| 見積金額の自動決定 | 後回し | 間違いの影響が大きい。材料の提示までにとどめる | 金額の最終決定 |
(2)試す前のチェックリスト
次の項目に、はい・いいえで答えてください。いいえが多い項目から、先に手を付けます。
- [ ] 試したい業務を1つに絞った
- [ ] その業務の月の件数を、履歴から数えた
- [ ] 1件にかかる時間を、確認や修正を含めて測った
- [ ] 使う記録は、電子化されている
- [ ] 記録の書き方(項目名、番号)が、ある程度そろっている
- [ ] 使う文書に、取引先から預かった図面や個人情報が入っているか確認した
- [ ] 取引先との契約で、外部サービスに入れてよい範囲を確認した
- [ ] 利用するサービスの、データの扱いに関する規約と設定を確認した
- [ ] 生成AIの出力を、誰が確認して、誰が決めるかを決めた
- [ ] 試した結果を、時間や間違いの数で記録する方法を決めた
よくある質問
製造業の生成AI活用でよく聞かれる質問に、結論から答えます。
(1)金型や部品加工の図面を、生成AIに読ませてよいですか?
取引先から預かった図面は、契約上の確認が済むまで入れません。自社で作った図面でも、外部のサービスに入れる前に、データの扱いに関する規約を確認します。社外にデータを出さない構成なら、扱える範囲が広がる可能性があります。
(2)過去の見積を検索できれば、見積金額も自動で出せますか?
検索できることと、金額を決められることは別です。過去の近い案件を探して並べるところまでは、試せます。金額には、材料費、段取り、今の稼働状況など、記録にない事情が入るため、決めるのは人に残します。
(3)記録が紙やExcelでばらばらでも、始められますか?
始められますが、先に記録を整える作業が必要です。全部を整えるのではなく、直近の数年分や、よく参照する案件だけに絞って始めます。今後の分から書き方を決めるだけでも、後の検索が楽になります。
(4)金型・射出成形の会社での導入事例はありますか?
金型・射出成形そのものの導入事例は、もちもつにはまだありません。製造業に近い例として、建設機械メーカーの品質保証部門で、過去の試験記録を探す仕組みを作った事例があります。金型・成形の現場には、同じ考え方を当てはめられるかを、一緒に確かめることになります。
次にやることは、業務を1つ選び、件数と記録の状態を確かめることです
最初の1歩は、試す業務を1つ決め、その業務の月の件数と、記録の残り方を確かめることです。
(1)明日からできる3つのこと
生成AIの前に、自社の数字と記録の状態をそろえます。次の順で進めましょう。
- 判定表から、試す業務を1つ選びます。
- 履歴で月の件数を数え、1件にかかる時間を、確認まで含めて測ります。
- その業務で使う文書に、図面や個人情報が入っているかを確認します。
(2)自社に当てはめると迷う点は、一緒に整理できます
自社の記録と取引先との約束に照らして、どこから試せるかを一緒に決められます。見積の書き方、修理履歴の残し方、図面の扱いは、会社ごとに違います。もちもつでは、現在の業務の進め方と記録の状態を伺い、任せる範囲と人に残す判断から整理しています。
もちもつでは、業務の選定から現場で使われ続けるところまでを伴走する中小企業のAI導入支援を行っています。